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映画「国宝」を観た感想。

(※2025年7月7日にnoteへ投稿した文章です)

 3月以来久しぶりに一人で映画館へ行った。平日の日中なのにほぼ満席で、一人で来ているマダムが多かった。「国宝」ははじめて予告を観た時から、絶対面白い!と思っていたのでようやく観にこれてうれしい。
(記憶力が残念なのでストーリーは追わないです。特に印象に残ったことを自分のために書きます)

 予告が終わって暗くなった途端、右隣のマダムが何やらこそこそしている。カバンの中からじゃがりこを出して食べ始めた……!!持ち込みがだめなのは大前提として、じゃがりこはダメでしょ。しかも私、以前もじゃがりこ食べる人の近くになったことがある。何でじゃがりこ…映画館で食べたら絶対ダメなやつでしょ…。じゃがりこに罪はないんだけどさ。

 映画が始まったので気を取り直して、がんばって集中する。
 最初から惹き込まれて、難なく集中して観ることができた。若い頃の喜久雄と俊坊のお話。俊坊がめちゃくちゃ上手でびっくりした。二人で楽しそうに歌舞伎をやっていて、ここから先を考えると思い出すだけで切ない。
 喜久雄には春ちゃんという幼馴染の彼女がいて、父親が殺されて復讐しに行く時も、背中に大きな刺青を入れる時も、大きな劇場にたって人気が出始めた時もいつもそばにいた。そしてもちろん俊坊もいつも一緒。
 二人の「道成寺」はずっと俊坊がほほえんでいるように見えて、ああ二人でやるのが本当に嬉しくてたまらないんだなぁ、と思った。
 そして、映画後半の「道成寺」では喜久雄がほほえんでいるように見えた。自信がついて余裕すら見える。二人のバランスが変わったことを感じさせる。
 「結婚しよう」という喜久雄に涙を浮かべる春ちゃん。これから、というときに身をひくことが愛なのかな。もしかしたらこの時すでに、俊坊への気持ちが大きくなってきていたのかな。歌舞伎に身を捧げる喜久雄より、自分を好いてくれる俊坊に行ってしまうのも分かる気はするけど。
 血筋よりも芸で選ばれた喜久雄。もちろん俊坊はふてくされる。それでも何とか気持ちを保っていたのに、実際舞台にたつ喜久雄をみて途中で外に出てしまった。春ちゃんと一緒に…。何で…春ちゃん…。

 私は小さい頃、少しだけ日本舞踊を習っていたので踊りで女性を表現することの大変さ(私は女なのに)が0.1ミリくらい分かるのだけど、汗だくで二人で後傾しているところとか足の向きとか腰を落とすとか見た目以上に結構しんどくて、お稽古が辛かったなと思い出した。
 生の歌舞伎は観たことないけれど、歌舞伎役者の二人が、もう本当にそのまま役者さんでどれほどの努力をしてきたのか想像もできないくらい。それだけで尊敬するし、「曽根崎心中」とか本物の歌舞伎を観てみたいな、とも思ったけど、この映画を超えられるような気がしなくて躊躇するほど。
 ストーリー関係なく、歌舞伎の映像だけで円盤発売してほしいくらい。それぐらい本当に素晴らしかった。素晴らしいとしか言えない。語彙力ほしい。

 俊坊と春ちゃんが姿を消してから、喜久雄は芸妓さんとの間に子どもが生まれる。一緒には住んでいないもののかわいがっているように見えたけど、神社で悪魔と取引しているところを見られて、これは子どもにとってトラウマになるのでは、、、と思った。
 俊坊が家に帰らないので、三代目は喜久雄が継ぐことになる。お母さんは反対するけど帰ってこない息子も悪い。この辺りも切なかったな。家を途切れさせられないことと親の気持ちと子の気持ち。芸の道は本当に大変なんだな。生まれた時から道が決まってしまっているんだもの。大変なのは芸の道だけではないけど。
 四代目が倒れた時、俊坊!って叫ぶの辛い。そして四代目が亡くなって何の後ろ盾もない喜久雄は彰子ちゃんを利用するのだけど、それも父親に見抜かれている。二人で家を出てどさまわり。振り向いたら目の前に人がいるのめっちゃ怖いんですけど。しかも酔っているからタチが悪い。背中の刺青を見られて「偽物じゃねぇか!」って言われるところで泣いた。(最初からずっと泣いてる。)ウィスキーをラッパのみして屋上で踊るシーン、切なくて切なくて、今にも壊れてしまいそうで「どうか死なないで」と祈りながら観ていた。 

 初対面でけんかした竹野さんが何かと気にかけてくれていたのが救いだったな。国宝の方と会って舞って。

 それにしても俊坊も春ちゃんもどんな顔して戻ってきたの。よく戻ってこれたよね。もう腹立つ。泥棒なのはそっちじゃんかよー。今までどんな気持ちで喜久雄が過ごしてきたと思ってるんだよ。
 喜久雄はもう達観しているのか、そこら辺感情が麻痺しているのか。気持ちを閉じ込めていないと無理でしょう、あんな仕打ち。
 けど、とにかく二人でまた舞台に立てることが一番なんだろうな。ようやくまた二人で!って時に今度は俊坊が糖尿病。「曽根崎心中」で足が壊死しかかっているのを見る喜久雄、倒れながらも最後まで演じる俊坊。二人の気迫がすごくてもうずっと泣いてた。二人ともどうか幸せになって。二人で幸せになって。生きて。
 
 時は経って、喜久雄が国宝になった。芸妓さんとの娘がカメラマンで、油断していたからちょっと声出た。恨み言を言われるのに、最後は「日本一の歌舞伎役者になったね」と。どれほどの想いがこめられた言葉なのだろうか。重いよ。呪いだよ。それでも忘れたことはない、と言う喜久雄。悪魔に魂を売ったわけじゃなかったんだね。泣く。
 最後の「鷺娘」はきれいで切なくて儚かった。ようやく見たかった景色を見ることができた喜久雄。
 客席、斜め上からは誰がずっと見ていたんだろう。四代目かな。お父さんかな。

 
出演している俳優さん、皆さんが本当にとても素晴らしくて、ドキュメンタリーを見ているような気持ちになった。ずっとこの世界、この二人を観ていたいと思った。今年はもちろん、ここ数年でも大傑作だと思う。今までに感じたことないほど周りの人も観に行っている。何となくでも歌舞伎や芸の世界を知っている日本人で良かったと思うし、世界の人にも観てほしい。誇りに思う。映画館で観てからもう三日経つのに思い出してまだ泣く。

 ここまで読んでくれた方がもしいたらうれしいです。ありがとうございました。

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